The Magic Lantern Show Sec. 5

小泉八雲 落合貞三郎他訳 「知られぬ日本の面影」 第二十五章 幽靈と化け物について (五)

 

         五

 

 

 地獄から出て、もつと大きい、それからずつともつと寒い建物にある幻燈の方へ行つた。日本の幻燈は殆んどいつでも、色々な點で興味があるが、西洋の發明を東洋趣味に適合させた日本人の天才を實際に見せて居る點で或は特別に興味があらう。日本の幻燈は全く劇的である。臺詞(せりふ)は見えない人物が述べる、役者と背景はただ明るい影になつて見えると云ふ芝居である。それで凡ての種類の妖怪變化の物に特に適して居るから幽靈の出る芝居は好題目になる。この小屋はひどく寒いので、私は一つ見るだけしか待てなかつた、――つぎはその梗概である。――

 

 

 

 第一場。――甚だ綺麗な田舍娘とその老母がうちで一緒に坐つて居る。母は身を悶えて烈しく泣く。その盛んなすすり泣きの間からとぎれて聞える狂氣の言葉で察すると、娘はどこか山中の淋しい社の神樣に人身御供となる事にきまつて居る。その神樣は惡神である。一年に一回、その神樣が喰べるための少女が欲しいと云ふ合圖にどこか農家の藁屋根に矢を射る。少女をすぐに送らないと、神樣は收穫物や牛をなくしてしまふ。母は泣き叫んで、白髮をかきむしりながら退場。娘は頭を垂れて、やさしくあきらめたやうすで退場。

 

 

 

 第二場――道ばたの茶屋の前、櫻花滿開。人足が駕籠のやうにしてその中に娘が居る筈の大さな箱をかついで來る。箱をおろして、飮食するために入る、おしやべりの主人に話をする。兩刀をさした立派な武士が入場。箱について尋ねる。おしやべりの主人は人足から聞いた話をくり返へす。武士は烈しい憤怒を表はして神樣は善良で、――少女を喰べる筈はないと斷言する。その所謂神樣は鬼であると宣言する。鬼は退治すべき物と云ふ。箱を開けと命ずる。娘をうちへ歸してやる。自分が代つて箱に入る、それから人足に、命が惜しければ、その社へ直ち運べと命ずる。

 

 

 

 第三場。――森を通つて夜、社へ人足が近づいて來る。人足は恐れる。箱を落して逃げる。人足退場。暗がりに箱だけ殘る。覆面した眞白の物入場。その物は氣味の惡いうなり聲を出し、恐ろしい叫び聲を發する。箱はやはりそのまま。その物覆面を取つてその顏を見せる、――光つた眼をした骸骨であつた。〔見物は一時に『アアアアアア』の音を立てる〕その物はその手を出す、――大きな猿のやうな手で、鷲のやうな爪がある。〔見物は又『アアアアアア』と叫ぶ〕その物は箱に近づく、それにさはる、箱を開く。勇ましい武士がとび出す。格鬪になる、太鼓が戰爭らしくどろどろと鳴る。勇ましい武士は柔術を巧みに使ふ。鬼を投げ倒し、蹈みつけて、首をはねる。首は不意に大きくなつて、家の大きさになる、武士の頭をかみ取らうとする。武士は刀でそれに斬りつける。首はうしろへころがつて、火を吹いて、消える。終り。一同退場。